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ABO:ビジネス+IT=∞

ビジネス+IT=∞

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 2005年に、日本では3件目の世界遺産となった知床。北海道斜里郡斜里町立峰浜小のブログは、その大自然の営みを垣間見せ、まずは私の琴線に大きく触れた。しかし、同ブログは単に学校や地域の「情報化」を目指して発信したわけではない。前回までで紹介したように、豊かな観光資源を持ちながらも過疎に悩み、学校の存続すら危ぶまれるこの地に、具体的に山村留学生を呼び入れる手段として機能もしているのだ。そして、地域の大人がネット社会の危険性から子供らを見守る意図もあった。
 同ブログ開設に貢献した宮内盛一教諭は、実は僕と同じような東京郊外の川崎市多摩区出身。その話しぶりからもとても都会的な印象を受けたのだが、年齢も30代後半と世代的にも近く、多くの共通項を持っていた。幼い頃にはまだ雑木林も近所に残されていたが、成長するにつれそこは宅地に変わり、いつの間にか土管の置いてある空地も消えた。だからこそ、田舎の祖父母の家で過ごした夏の想い出にも固執し、趣味もいまだにアウトドアだったりする。しかし、徐々にハイテク機器に生活が埋め尽くされ、必要に応じパソコンも駆使するようになった。

 が、宮内教諭と僕を分け隔てるのは、教諭のように学生時代から単身北海道に渡り、そして、そこで教師として定住するほどに自然を真摯に愛する姿勢を僕が持てなかった点だろう。そうは言ってもしかし、氏の根っこは都会人。斜里町や峰浜小が置かれた過疎という実情に抗するには、ITの力を利用するほかないと思った途端、それを豊かに稼働させる実行力と、誰しもの心を惹く磨かれた表現に仕立て上げるセンスを持ち合わせていたのだ。

 「自身のブログも『こどもホームページコンテスト』で入賞した乙部雄大君は、たいへんな歴史好き。だから、ハンドルネームが“歳三くん”、すなわち土方歳三から来ているんですが、東京からここに移り住んで本当に積極的になった。川の日制定10周年記念の『ぼくらの水辺再発見マップ』というコンクールや、『第1回子ども衛星アイデアコンテスト』でも入賞するなど、やはり都会っ子らしいセンスを大いに発揮してます。今ではお母さんまでがブログを運営しています」と宮内教諭。僕自身、ブロードバンドのインフラが全国域で整備されるまで、辺境に取材に赴いてはその不便さに辟易としたこともあったが、これを聞き本当にSOHOが可能な時代が到来したのだと痛感した。

 「私の娘も峰浜小の3年生。友だちが多いに越したことはないんです。留学生からはとても刺激を受けている」という宮内教諭の言葉からも、本来、この乙部君の例のようなダイレクトな人的交流があるのが最も望ましいとは思う。しかし、たとえば無料のIP電話として有名なスカイプの利用などで、遠隔にあっても峰浜小とのコラボはたやすい。都会で鍛えられる発想力はどういう形であれ田舎にも持ち込まれる。その交歓がより盛んになることで、新たなビジネスチャンスすら生まれそうな気配もするのだ。この辺りの勢いを、次回は峰浜小の周辺地域の動向を追うことで伝えよう。


 北海道斜里郡斜里町立峰浜小学校の「北海道『知床』峰浜発みんなのブログ!」は、昨年5月にスタートした。地域の大人が子供たちを見守るという恰好で、児童2名によってまず発信。それが5名の規模になって、この3月いっぱいをもって一応の終了をみたと同時に、学校の管理に引き継がれた。

 同校では、毎年5月に行なわれるサケの稚魚の放流式が1つの大イベントとなっており、今年で9回目を数える。卵の状態でもらい受けた稚魚は、孵化し放流するまでに5カ月を要する。その発育観察記録こそが、当初のブログの目的だった。さらに、知床のような辺境にも瞬く間に浸透するインターネットの見守り方を教えるのも、同時に意図された。まだ幼い生徒らがネットのダークサイドに惑わされず、本来そのツールが持つ無限の力をポジティブに活用できるよう仕向けるには、自ら発信に関与させるのが効果的と判断したのだ。これはとても賢明と言えるだろう。

 2004年の長崎県佐世保市での小6女児同級生殺害事件や、この間の会津若松母親殺害事件の被疑者たちは、明らかにネットのダークサイドに引きずり込まれてしまった結果、それらの犯罪を犯している。実は娯楽やコミュニティの少ない地方にこそ、こうしたネットの負の力に屈しがちな土壌があるとは言えなくもない。特に佐世保の事件では、加害女児と被害者が互いにウェブサイトを運営し、パソコンでチャットや掲示板に書き込みをする仲だったことが指摘されている。だからこそ、自然との共生を教えると同時に、知床の大人たちにとっても、「ネット社会の渡り方」を、ホームページやブログ作成を通じて生徒に授けるのは急務だったのだ。

 一連のプロジェクトに関わってきた宮内盛一教諭も、同校の山村留学制度が都会の子供たちを巻き込んでの町おこしゆえに、ネットでの発信は不可欠と考えていた。

「私自身、01年に峰浜に着任しましたが、それまではPR手段はチラシや口コミ。前任の教頭がこの件では積極的で、その前年にまず町の観光課のホームページに同居する体制を作っていたので、翌年には協力して学校のホームページを立ち上げました」

 当初はプロバイダから料金を払ってレンタルしていたが、ブログなら無料で借りられると聞き、更新も簡単なので飛びついた。今では同校絡みで生徒・職員・サケ・植物・地域(保護者)と、5種類のブログが稼働している。繰り返すが、峰浜小の生徒はたった16名というのにである。この力の源はどこにあるのだろう。その辺りを、次回はじっくりと宮内教諭に聞いてみよう。


 最近のぼくは1冊の著書(『名門高校人脈』光文社新書)がきっかけとなり、教育についてよく取材や執筆を行なっている。そこで今回から数回に渡り、教育分野におけるIT活用の事例を紹介しよう。

 元来、子供たちには大人以上の発信力が備わっている。子供というのは人の神経系に喩えられるかもしれない。神経細胞が本来あるべき正しい位置に配置され、それぞれが正しくシナプスで結合するという人の神経の形成は、この世に生を受けた赤ん坊が父母を皮切りにさまざまな人々と出会い、結びつき徐々に成長していく姿に似ている。子供の無限の可変性はITと相性がいいはずなのだ。

 現に、小学生が作成する『こどもホームページコンテスト(「週刊アスキー」主催)』など、子供たちの社会意識もコンテンツから見出すことができ、かなり頼もしい。同コンテストは昨年度からはブログ部門も新設され、バラドル志望の女の子が、「ブログの女王」として有名な眞鍋かをり顔負けの写真をふんだんに使ったPRブログを展開し、準グランプリを獲得していたりする。

 残念ながら入賞者の多くのサイトの更新が滞ってもいるが、優秀賞の「歳三くん日記」「北海道『知床』峰浜発みんなのブログ!」などは健在。これらは、母親とともにホスト校である北海道の峰浜小学校に山村留学した小5の少年のブログだ。ITの先端性とは一見無縁な、とてものどかな田舎での日々が綴られているのだが、その背景には過疎化で生徒の集まらない村の学校が存続を賭ける親子山村留学のPRという意図がある。

 現に、同校の全生徒22名のうち6名が留学生で、残りの16名のうち2名は、実は留学期間を終えて定住した一家の子女。すなわち半数近くはこのシステムが呼び寄せた遠方からの“お客様”なのだ。しかも、教育費に糸目をつけない家がマスコミなどから大いに注目されているこのご時世の中、逆にこの親子留学を利用する家庭には月額3万円ほどの支援金が出る。そこからも同校のような僻地校の置かれた状況が読み取れるはずだ。

 だからこそ、同校のホームページやブログは実に魅惑的に、彼らが抱かれる自然の豊かさ、美しさをアピールする。一輪車の練習をしている時に、オーロラみたいな彩(あや)雲を発見したり、サケの稚魚の放流式に参加しては、その可憐さに研究意欲を刺激されるといった、彼らの日々の成長が絶えず目で追える。これもITが広く消化吸収された時代の証と言えるだろう。

 さらに詳しくは次回、同校IT担当の宮内盛一教諭にうかがうとしよう。



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