アスキービジネス

ABO:ビジネス+IT=∞

ビジネス+IT=∞

 これまで本ブログでは、さまざまな業界がITを活用する現場の事例を見てきた。今回は趣向を変え、ITを活用させる側のIT部門に求められる人材像や仕事ぶりに着目してみよう。

 今や、企業の発展にITが必要不可欠であることは明白だ。しかし、そこに費用をかけているから、最新の設備を備えているから企業は発展するかというと、そう単純ではない。また、最近のIT部門の役割は、日々のシステム運用だけではない。たとえば、意志決定を迅速にし企業の競争力を強化させるためのIT導入など、経営戦略上、重要な役割を担うようになってきた。

 このように、どうも企業内での位置付けが変わりつつあるIT部門。その立場をとことんおちょくったコメディがイギリスで大人気となり、日本でも一部で話題となっているのをご存じだろうか。イギリスのチャンネル4制作の『ハイっ、こちらIT課!』(原題:The IT Crowd)がそれだ(http://www.comedique.com/)。本年1月からWOWOWの「コメディUK!」枠で第1シリーズがすでに放送。夏以降には第2シリーズが放送される予定で、同時にDVDも発売になる。その内容は……。

 いまひとつ何を生業にしているかわからないほどの大企業、レインホルム社が舞台。もっとも、物語の多くはその地下にある、お荷物部署「IT課」で展開される。この課にはロイとモスという2人のオタク社員しかおらず、業務のほとんどが実は社内のPCトラブルシューティングに過ぎず(ロイの電話での問い合わせへの第一声は必ず「ハイ、IT課。再起動した?」)、ほとんど放置状態なので、勝手気ままに過ごしている。
 そこへ、コンピュータに関してはまったく無知にも関わらず、IT通を自称し採用された女性マネージャー、ジェンが2人の上司として着任し、そのすれ違いからとんでもない騒動が巻き起こる。

 一般に期待されるIT部門の人材像からだいぶかけ離れた男女が、ITという一見、非人間的なものの象徴のようなツールを駆使する役目を負わされる。ロイとモスは相当PCには長けているが、それぞれ人付き合いが苦手であり、やがてITオンチではあっても社交上手のジェンは、この両名の「人間関係担当マネージャ」を自認するようになる。互いの欠点を補い合って、持ちつ持たれつの間柄になるという寸法だ。

 むろん、望ましきはこの両面を兼ね備えた人間だろう。ただ、ITという非常に抽象的な概念が具体化する際に各所でおこる「人間力」について、爆笑させつつも考えさせる仕組みを『ハイっ、こちらIT課!』は持っている。だからこそ全世界的にうけ、なんとすでに米NBCによるリメイクも決定している。

 ITとはいうまでもなく、英語の“Information Technology(情報技術)”の略称である。また最近は、同義語として“Information and Communication Technology(略称ICT:情報通信技術)”も用いられる。企業のIT部門では、先の「人間力」、特にこの“Communication”が重要となるというわけだ。次回以降、それを具体的に検証していこう。


 過去3回に渡って紹介してきた、北海道斜里郡斜里町立峰浜小の一連のブログ。これまで話をうかがってきた同校IT担当の宮内盛一教諭は、教職に就いて最初は現在は北見市に合併された留辺蘂町に赴任。山深くはあるが、北海道でも老舗の温泉地・温根湯温泉を擁する町で、生徒数も100名はいた。その後、網走の大規模校を経て、本格的に過疎に悩む斜里町に着任したのだ。

「斜里町には海も山もあり、漁業・農業・観光が基幹産業。しかし、夏以外は観光もぱっとせず、人口流出は止まらない。峰浜小も最近、僻地2級から3級に指定換えされてしまいました」

 この僻地学校の等級(1級~5級)とは、その数字が大きいほど度合いが高く、これに准じて教員には特別手当が支給される。その値は本俸に対する付加額で示され、5級ともなると25%増しなのだが、その「都から遠く離れた」想像を絶する不便さは、元教員で廃村の研究をする浅原昭生さんが実際に5級校を訪ねたホームページを見ても明らかだ。教員採用が厳しい昨今、是が非でも小学校教員を志望するなら僻地勤務、とも言われる所以もそこにある。しかし、全国に僻地校は総数4178校(小学3016校、中学1162校)あり、全公立小中学校(3万3749校)のおよそ12%にも当たるのだ(平成15年調べ。休校中の学校も含む)。
 日本では人の住むところ、必ず義務教育機関があるというのが建前。明治時代、北海道の開拓地では学校が作られるまでその地域は免税だったとされる。つまり、行政のおよぶ範囲は即、義務教育が実施可能ということなのだ。しかし、僻地校も所定の数の生徒が集まらねば、廃校を余儀なくされる。峰浜小にもその危険は差し迫っていた。事実、生徒が15名以下だと担任が1人置けなくなり、教頭が担任を兼務する。さらに14名になると事務職員もカット。教頭+担任+事務職員を1人で務めなければならない。

 「年度当初に16名をクリアするかどうかは、山村留学生にかかっている、ということになります」と宮内教諭も苦笑する。しかし、教諭がIT教育を推し進め、その表現力で全国的評価を得るようになって以来、僻地校同士の交流も密になった。教諭は山村留学がいっそうの全国的理解を得ると期待している。

「沙流郡平取町の振内小学校では、札幌から移り住んだ有志が非常に協力的で、親子留学の保護者のためにコンビニまで作ってしまった。そういう地域の活力を集める場に、学校がなっているんです」

 同校は5~60人の生徒規模で、学校維持というよりは、過疎化の歯止めという捉え方で運営されている。一口に山村・海浜留学と言っても、さまざまな意図や形態があるのだ。北海道内の留学については、
 同校関係者が主催する北海道田舎留学支援センターが「田舎すくーる北海道」というポータルサイトを運営。これは農水省の「農村コミュニティ再生・活性化支援事業」に採択され、半額だが助成も受けている。将来的には、視察に訪れる人たちのために交通機関や宿泊施設の手配までも視野に入れ、活動中だ。

 「たった一校、一地域ではできないこともみんなで協力していけば、きっと大きな成果をあげられます」と、その巻頭言にもあるが、そもそも、峰浜小の一連の活動も、「つながりを大切にしたいという、子ども2名の意見で、とりあえずやってみようと始めました」(宮内教諭)とのこと。ITに限らず、すべてのビジネスを成功に導く鍵もまた、その素直な姿勢にあるのだろう。


 2005年に、日本では3件目の世界遺産となった知床。北海道斜里郡斜里町立峰浜小のブログは、その大自然の営みを垣間見せ、まずは私の琴線に大きく触れた。しかし、同ブログは単に学校や地域の「情報化」を目指して発信したわけではない。前回までで紹介したように、豊かな観光資源を持ちながらも過疎に悩み、学校の存続すら危ぶまれるこの地に、具体的に山村留学生を呼び入れる手段として機能もしているのだ。そして、地域の大人がネット社会の危険性から子供らを見守る意図もあった。
 同ブログ開設に貢献した宮内盛一教諭は、実は僕と同じような東京郊外の川崎市多摩区出身。その話しぶりからもとても都会的な印象を受けたのだが、年齢も30代後半と世代的にも近く、多くの共通項を持っていた。幼い頃にはまだ雑木林も近所に残されていたが、成長するにつれそこは宅地に変わり、いつの間にか土管の置いてある空地も消えた。だからこそ、田舎の祖父母の家で過ごした夏の想い出にも固執し、趣味もいまだにアウトドアだったりする。しかし、徐々にハイテク機器に生活が埋め尽くされ、必要に応じパソコンも駆使するようになった。

 が、宮内教諭と僕を分け隔てるのは、教諭のように学生時代から単身北海道に渡り、そして、そこで教師として定住するほどに自然を真摯に愛する姿勢を僕が持てなかった点だろう。そうは言ってもしかし、氏の根っこは都会人。斜里町や峰浜小が置かれた過疎という実情に抗するには、ITの力を利用するほかないと思った途端、それを豊かに稼働させる実行力と、誰しもの心を惹く磨かれた表現に仕立て上げるセンスを持ち合わせていたのだ。

 「自身のブログも『こどもホームページコンテスト』で入賞した乙部雄大君は、たいへんな歴史好き。だから、ハンドルネームが“歳三くん”、すなわち土方歳三から来ているんですが、東京からここに移り住んで本当に積極的になった。川の日制定10周年記念の『ぼくらの水辺再発見マップ』というコンクールや、『第1回子ども衛星アイデアコンテスト』でも入賞するなど、やはり都会っ子らしいセンスを大いに発揮してます。今ではお母さんまでがブログを運営しています」と宮内教諭。僕自身、ブロードバンドのインフラが全国域で整備されるまで、辺境に取材に赴いてはその不便さに辟易としたこともあったが、これを聞き本当にSOHOが可能な時代が到来したのだと痛感した。

 「私の娘も峰浜小の3年生。友だちが多いに越したことはないんです。留学生からはとても刺激を受けている」という宮内教諭の言葉からも、本来、この乙部君の例のようなダイレクトな人的交流があるのが最も望ましいとは思う。しかし、たとえば無料のIP電話として有名なスカイプの利用などで、遠隔にあっても峰浜小とのコラボはたやすい。都会で鍛えられる発想力はどういう形であれ田舎にも持ち込まれる。その交歓がより盛んになることで、新たなビジネスチャンスすら生まれそうな気配もするのだ。この辺りの勢いを、次回は峰浜小の周辺地域の動向を追うことで伝えよう。


 北海道斜里郡斜里町立峰浜小学校の「北海道『知床』峰浜発みんなのブログ!」は、昨年5月にスタートした。地域の大人が子供たちを見守るという恰好で、児童2名によってまず発信。それが5名の規模になって、この3月いっぱいをもって一応の終了をみたと同時に、学校の管理に引き継がれた。

 同校では、毎年5月に行なわれるサケの稚魚の放流式が1つの大イベントとなっており、今年で9回目を数える。卵の状態でもらい受けた稚魚は、孵化し放流するまでに5カ月を要する。その発育観察記録こそが、当初のブログの目的だった。さらに、知床のような辺境にも瞬く間に浸透するインターネットの見守り方を教えるのも、同時に意図された。まだ幼い生徒らがネットのダークサイドに惑わされず、本来そのツールが持つ無限の力をポジティブに活用できるよう仕向けるには、自ら発信に関与させるのが効果的と判断したのだ。これはとても賢明と言えるだろう。

 2004年の長崎県佐世保市での小6女児同級生殺害事件や、この間の会津若松母親殺害事件の被疑者たちは、明らかにネットのダークサイドに引きずり込まれてしまった結果、それらの犯罪を犯している。実は娯楽やコミュニティの少ない地方にこそ、こうしたネットの負の力に屈しがちな土壌があるとは言えなくもない。特に佐世保の事件では、加害女児と被害者が互いにウェブサイトを運営し、パソコンでチャットや掲示板に書き込みをする仲だったことが指摘されている。だからこそ、自然との共生を教えると同時に、知床の大人たちにとっても、「ネット社会の渡り方」を、ホームページやブログ作成を通じて生徒に授けるのは急務だったのだ。

 一連のプロジェクトに関わってきた宮内盛一教諭も、同校の山村留学制度が都会の子供たちを巻き込んでの町おこしゆえに、ネットでの発信は不可欠と考えていた。

「私自身、01年に峰浜に着任しましたが、それまではPR手段はチラシや口コミ。前任の教頭がこの件では積極的で、その前年にまず町の観光課のホームページに同居する体制を作っていたので、翌年には協力して学校のホームページを立ち上げました」

 当初はプロバイダから料金を払ってレンタルしていたが、ブログなら無料で借りられると聞き、更新も簡単なので飛びついた。今では同校絡みで生徒・職員・サケ・植物・地域(保護者)と、5種類のブログが稼働している。繰り返すが、峰浜小の生徒はたった16名というのにである。この力の源はどこにあるのだろう。その辺りを、次回はじっくりと宮内教諭に聞いてみよう。



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