2006/11/06
中小企業に潜むワナ
2007年問題と事業の承継 その2
■税制面での取り組み
中小企業で、経営者が交代するたびに生じてきた事業承継問題。これまでは、個々の企業の顧問税理士や弁護士などが、経営者や経営者一族と一緒になって解決してきました。しかし近年では、社会全体で総合的に事業承継をフォローする動きが広がってきています。事業承継の円滑化は、日本経済を支える中小企業の技術や雇用の確保、ひいては日本経済の活性化につながるからです。
そうした動きの1つが、事業承継に対する税制面での優遇です。事業承継の大きな障壁となるのが「相続税」の問題です。事業を承継するときには、同時に経営者の有する財産の相続という問題が生じる可能性があります。
経営者の財産は、その企業の株をはじめ、さまざまなものがあります。場合によっては、経営者の所有する土地や建物を企業に賃貸していたり、経営者が企業に対して資金を貸し付けているなど、企業経営と経営者の財産が一体化していることも多々あります。そのため、事業を続けていくには、それらの財産を相続する必要があります。そうなると、多額の相続税がかかる可能性があるのです。
しかし、相続税の支払いは簡単ではありません。たとえば、10億円分の「株」や「不動産」を相続した場合、(個々のケースによって異なりますが)2~3億円の相続税を納付する必要が生じます。相続税は、現金一括納付が原則です。それだけの「現金」がなければ、株や不動産を売却するといった方法で納税資金を捻出しなければなりまん。しかし、それらの資産を売却してしまっては企業経営に問題が生じる可能性があります。そのため現時点では、事業を承継するなど一定の要件を満たす場合、事業のために利用していた土地の相続税が減額されるなどの特別な措置がとられています。
さらに、そうした優遇措置を広げようという動きもあります。2006年の10月3日、安倍晋三首相は、企業の経営者が子孫に事業を引き継ぐ際の相続税の軽減などを認める「事業承継税制」の特例措置の拡充を検討する方針を表明しました。具体的には、現在は土地のみである優遇措置を、その他の財産まで広げることが検討されているようです。
■事業承継に向けた社会の動き
そのほかにも、さまざまな組織が、事業承継をフォローしています。2005年10月21日に、中小企業の事業承継の円滑化を目的として発足した「事業承継協議会(http://jcbshp.com/)」もその1つ。
同協議会では、中小企業における事業承継の円滑化のために必要な取り組みを行なうことを目的とし、事業承継に関する研究やセミナーの実施、事業承継ファンドの構築など、総合的な取り組みを実施しています。これまでも、中小企業庁(http://www.chusho.meti.go.jp/)や、独立行政法人中小企業基盤整備機構(http://www.smrj.go.jp/)などによって、事業承継への支援は行なわれてきました。さらに、専門的な組織として同協議会が発足したことから、社会の事業承継問題への関心の高さがうかがえます。事業承継問題は、個々の企業、そして社会全体での長期的、計画的な取り組みが不可欠なのです。
2006/10/24
中小企業に潜むワナ
2007年問題と事業の承継 その1
みなさん、はじめまして! 今月からアスキービジネスでブログを始めることになりました、公認会計士の平林亮子です。このブログでは、常日頃から経営者のそばで会社経営を目の当たりにしている経営カウンセラーとしての視点から「社会での出来事が会社経営に与える影響」や「今、会社全体で生じている問題点」などをお伝えしていきます。
さて、第1回目となる今回は「2007年問題」についてお話します。とは言っても、現在マスコミなどで話題になっている、団塊世代が定年退職を迎えることで、知識や技術、経験などが若い世代に受け継がれることなく失われるという問題のことではありません。こうした、技術や知識の“承継”問題を引き起こす2007年問題ではなく、「事業継承」の問題についてお話します。これは、特に中小企業の経営者にとっては深刻な問題なのです。
■中小企業の“承継”問題
「事業承継」とは、企業の経営を誰に、どのように引き継いでいったらいいかという問題です。と同時に、経営者の持つ株をどのように引き継ぐかという問題でもあります。団塊の世代が定年退職を迎えるかもしれないということは、同世代の社長も引退を考えていかなければいけない時期が来ているということ。実際、帝国データバンクの「社長交代率調査」によると、2005年の時点で社長(個人経営の代表者含む)の平均年齢は58歳9カ月とのことですから事態は深刻です。
もちろん、社長の定年は60歳であるとは限りません。しかし、社長であればなおさら、健康であるうちに、その業務を後継者に引き継いでいく必要があるのです。
■事業承継問題に潜む問題点
事業承継問題には、大きく3つの問題があると言われています。
第一の問題点は、そもそも経営者自身が、事業承継問題に対する自覚がない可能性があるということです。特に一代でビジネスを築き上げた経営者などは、「死ぬまで働ける」「まだまだ元気」といった意識が強い傾向があります。実際、私のクライアントである社長さんから「引退など考えていない」と言われたことがあります。お元気な経営者の方は、「引退」あるいは、亡くなられた場合についてのことになかなか目を向けられないでいるのです。また、経営者の引退は周囲からも指摘しにくいものです。
第二の問題点は、中小企業では事業承継を単なる経営者の交代で片付けられないという可能性があるということです。国税庁データによると、日本の中小企業の9割以上は同族会社であるといわれています。つまり、家族が株主で家族が経営者。そのため企業をどうするかという問題は、そのまま身内が持つ株式をどのように承継するか、ひいては身内の財産などをどうするかという相続の問題も同時に解決しなければならない可能性が高いのです。
第三の問題点は、事業承継と一言でいっても方法はいろいろあり、いずれの方法をとるとしても準備にそれなりの時間がかかるということです。企業を存続させるには、①身内が企業を継ぐ、②外部の誰かが企業を継ぐ、③企業を売却する、といった方法が考えられます。①や②の方法であれば、後継者をきちんと育成しておく必要があるでしょう。また、③であれば“売れる企業”としての価値を付けておかなければなりません。
このように、事業承継は大きな問題をいくつも解決しなければならないのです。
■早期の自覚と事前の準備を
企業として経済社会に存在している以上、「いざとなったら倒産させれば済む」というのは無責任な発想といえます。経営者自らが事業承継問題を自覚し、適切な引退時期を見極め、それを実現させるための計画を立てて実施していく必要があるのです。取引先との関係や従業員の生活、残される家族のことを考え、何らかの形で決着をつけることまでが経営者の仕事なのですから。
しかし一方で、事業承継は個々の企業で解決できない問題も数多く存在しています。たとえば、相続に関する制度の問題は、一企業レベルで解決できる話ではありません。そのうえ、日本の企業の大部分は中小企業ですから、事業承継は社会全体の問題ともいえるのです。そのため近年では、社会全体で事業承継問題を解決しようとする取り組みが始まっています。
さて次回は、事業継承に関する社会の動きや、税制面の優遇措置などについてお話します。更新は11月中旬です。お楽しみに!
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