ABO:会計士平林亮子の経営カウンセリングルーム

公認会計士の平林亮子が、企業経営に関するさまざまな話題を会計の視点から語ります。

<前へ  |  2007年09月  | 


2007/09/27

東京都の財務諸表
東京都の「資産」の意味するもの

 前回は、経営の安定性を測る1つの指標である「自己資本比率」の高さから、東京都は優良企業といえるのではないかというお話をいたしました。実は、前回紹介した東京都よりも1年度後のデータですが、「国」の財務諸表は負債が資産を上回る「債務超過」であると公表されています。国家の財政破綻を懸念する声もあるなかで、東京都は非常に安定した状態にあると考えられるわけです。

 東京都の経営が安定していることは、その他のデータにも現れています。それは、キャッシュフローです。

 キャッシュフローとは、要するに収入と支出のこと。東京都は、収入の範囲内での支出となっており、過去の蓄えを取り崩したり、足りない分を借金でまかなうということはしていません。

 また「財務活動によるキャッシュフロー」を見ると、

都債の発行などによる借金による収入<都債などの返済のための支出

となっており、都債をはじめとする借金の返済が進んでいることがわかります。

 この点、

借金による収入>返済のための支出

となった場合には、返済のための資金を新たな都債の発行などでまかなっている可能性、つまり、借金の返済のために借金をしている可能性も出てきますので注意が必要です。もちろん、その他のデータとあわせて判断する必要はありますけれどね。

 さて、前回から2回に渡り、東京都は優良企業であるという話を展開してきましたが、気をつけるべき点もあります。その1つが、東京都の資産(財産)とは何か、ということ。今回公表された財務諸表には、「インフラ資産」という名前で道路、空港といった施設を記載しています。確かに、これらは東京都の資産なのでしょう。しかし、記載されている金額は、一般的にはその道路や空港を作るためにどれだけのお金がかかったかを基礎としています。すなわち、資産として記載された額に相当する税金等がその設備に投入されたということであり、記載された金額分の「価値」があるものかわからないというわけです。
 また、一般的な企業であれば自社の資産を処分して換金することも可能ですが、これらの「資産」は簡単に売ることもできないでしょう。よって、どれだけの利用価値のある設備なのかが重要になります。
 そう考えると、資産がふんだんにあると喜んでばかりもいられず、本当に役立つ資産なのか、ひいてはこうしたインフラ整備が本当に必要なのかといった視点ももたなければいけないのです。

 もちろん、財務諸表のデータだけでは理解できないこともたくさんあります。しかし、そのデータを日々の生活や政治にまで目を向けるきっかけにできることは間違いありません。東京都に限らず、みなさんもぜひ、さまざまな会計データに目を向けてみてください。今までとは異なる世界が広がるかもしれませんよ!


2007/09/20

東京都の財務諸表
東京都は優良企業!?

 株式市場や政治の混乱、相次いで明らかになった年金がらみの不祥事。最近はお金に絡む暗いニュースばかりが続きます。明るいニュースといえば、柔道の谷亮子選手が、世界柔道で「ママでも金」を達成したことぐらいでしょうか。
 不祥事を減らすには、そもそも不正ができない仕組みを作ったり、積極的な情報開示をすることが大切です。たとえば、国民から年金をいくら徴収して、それをどのように使ったり運用したのかを誰にでもわかるように公表したら、不祥事は減るでしょう。

 実は東京都が、こうした積極的な情報開示を行なっているのをご存じでしょうか? 東京都は、先日、全国初の企業の決算書の考え方を利用した平成18年度の決算書を公表しました。これにより、収支データだけでは見えてこなかった情報が見えてきたと評価されているようです。

 たとえば、在籍している都の全職員が自己都合で退職したと仮定した場合、約1兆4000億円ものお金が必要になるといった事実が把握できたこともその1つ。これはあくまでも「現時点」での「自己都合退職」の場合の金額ですから、実際に定年退職を迎えた場合を考えると、もっともっと多額の退職金が必要になるものと考えられます。

 なお、データを見る限りでは、東京都は企業として考えれば、わりと優良ではないかと考えられます(もちろん地方自治体ですから、一般企業とまったく同じ判断はできませんが)。優良な企業であると考えた1つの理由は、自己資本比率の高さです。

 東京都は「負債」(借金)を大きく上回る「資産」(資産)を有しています。負債約8兆3000億円に対し、資産は約26兆9000億円です。つまり、すべての負債を返済しても手許に約18兆5000億円残る計算になります。返済しなくてもいい財産を「正味財産」(企業会計では「純資産」)といいますが、正味財産が多いほど安定した経営ができることになります。

この点、正味財産の割合の多さを

自己資本比率=正味財産÷資産

として計算し、自己資本比率が高いほど安定した企業であると考えます。

 東京都について計算してみると、自己資本比率約70%です。国内の上場企業の自己資本比率の平均値は約40%ですから、東京都は非常に安定性の高い組織であるといえるでしょう。


2007/09/11

決算書と財務諸表監査
会計士と税務署の微妙なカンケイ

 これまで3回に渡り、決算書のチェック方法についてお話ししてきました。ところで、決算書のチェックは、何も会計士だけがするものではありません。税務署による税務調査もあります。これまで説明してきた監査と同じように、税務調査でも、資料の突合や取引先への問い合わせ(反面調査といいます)などを行ない、決算書の数値が正しいものであるかをチェックします。

 しかし、両者は目的が大きく異なります。とある企業の経理担当者から、こんな印象的な言葉を聞いたことがあります。

「会計士からは売上が多すぎないかと疑われ、税務署からは少なすぎないかと疑われたいへんですよ」

 会計士の監査は決算書が企業の実情を示しているかを調べるものであるのに対し、税務署による税務調査は税金の計算が法律にもとづいて正しく実施されているかをチェックします。
 会計士の監査では業績をよく見せるための架空売上がないかという観点からチェックすることが多いのに対し、税務調査では脱税のために売上(利益)を過小にしていないかという観点からチェックを行ないます。それが、先に紹介した経理担当者の発言に表れているというわけです。
 会計士も税務署も、決算書をチェックするという点では似ていますが、その目的は大きく異なっているのです。

 ところで、両者の異なる点がもう1つあります。それは、最終的な強制捜査権の有無。つまり、企業側が調査を拒否したとしても、税務調査の場合には最終的に法的な力を行使して強制的に調査できる可能性があります。一方、会計士の監査には企業の資料を見る法的な権限がほとんどありません。
 そのため、さまざまな手法を駆使して決算書をきちんとチェックできるかどうかは、企業にどれだけ協力してもらえるかにかかっているのです。


 決算書をチェックするため、公認会計士は前回紹介した「突き合わせ」以外にもさまざまな手法を用います。これらは地味で、かつ地道な作業ですが、あまり目にすることがないであろう会計士の仕事の一部としてご紹介しましょう。

 まずは「確認」と呼ばれる手法。これは、取引先や銀行に対して、決算書に記載されている取引が存在するのか、正しく記載されているかを文書で問い合わせる手法です。具体的には、売上代金としてまだ入金されていない場合、決算書に「売掛金」として記載されているものが本当に存在しているか、売上先に会計士が文書で直接問い合わせるというものです。これにより、架空の売掛金はないか、結果として架空の売上はないかをチェックします。

 銀行に対しては、預金残高や借入残高などがいくらあるのか問い合わせます。この際、普通預金や借入金といった項目のみを記載した用紙を送付し、銀行に書き込んでもらいます。よって、本当に預金が存在しているかを把握できるのはもちろんのこと、決算書に記載されていなかった預金や借入を発見できることもあります。

 なお、この「確認」という作業は、改ざんが行なわれないよう先方への問い合せ文書の封入作業から、ポストへの投函、相手先からの回収、開封まで、すべて会計士の手によって実施されます。

 次に「実査」と呼ばれる手法。これは、企業の金庫の中の現金や手形、小切手などが、実際に存在しているかどうかを確かめるというものです。具体的には、金庫の中の現金はもちろんのこと、手形や小切手が決算書に記載されているだけ存在しているかを数えたりします。銀行の帯封がついているような現金の束も、わざわざ帯封をはずして数えます。また、手形帳や小切手帳などについても冊数や使用状況をチェックします。時には、銀行の貸金庫まで訪ねていき、そこで企業の現金などを数えることもあります。こうすることで、決算書に記載された現金などが、確かに企業内に存在していることを会計士自らが確かめることができるのです。

 そのほか、企業が実施している棚卸作業に同席する「立会」、決算書数値から比率などを計算して矛盾点の有無を調べる「分析的手続」など、会計士はさまざま手法を駆使して決算書をチェックしているのです。



アスキービジネスについて

アスキービジネス

アスキービジネスはWebサイト「アスキービジネス オンライン」と雑誌「アスキービジネス ITスキルアップ」の両面から企業のIT担当者を支援するサービスです。