ABO:会計士平林亮子の経営カウンセリングルーム

公認会計士の平林亮子が、企業経営に関するさまざまな話題を会計の視点から語ります。

2007/09/11

決算書と財務諸表監査
会計士と税務署の微妙なカンケイ

 これまで3回に渡り、決算書のチェック方法についてお話ししてきました。ところで、決算書のチェックは、何も会計士だけがするものではありません。税務署による税務調査もあります。これまで説明してきた監査と同じように、税務調査でも、資料の突合や取引先への問い合わせ(反面調査といいます)などを行ない、決算書の数値が正しいものであるかをチェックします。

 しかし、両者は目的が大きく異なります。とある企業の経理担当者から、こんな印象的な言葉を聞いたことがあります。

「会計士からは売上が多すぎないかと疑われ、税務署からは少なすぎないかと疑われたいへんですよ」

 会計士の監査は決算書が企業の実情を示しているかを調べるものであるのに対し、税務署による税務調査は税金の計算が法律にもとづいて正しく実施されているかをチェックします。
 会計士の監査では業績をよく見せるための架空売上がないかという観点からチェックすることが多いのに対し、税務調査では脱税のために売上(利益)を過小にしていないかという観点からチェックを行ないます。それが、先に紹介した経理担当者の発言に表れているというわけです。
 会計士も税務署も、決算書をチェックするという点では似ていますが、その目的は大きく異なっているのです。

 ところで、両者の異なる点がもう1つあります。それは、最終的な強制捜査権の有無。つまり、企業側が調査を拒否したとしても、税務調査の場合には最終的に法的な力を行使して強制的に調査できる可能性があります。一方、会計士の監査には企業の資料を見る法的な権限がほとんどありません。
 そのため、さまざまな手法を駆使して決算書をきちんとチェックできるかどうかは、企業にどれだけ協力してもらえるかにかかっているのです。


 決算書をチェックするため、公認会計士は前回紹介した「突き合わせ」以外にもさまざまな手法を用います。これらは地味で、かつ地道な作業ですが、あまり目にすることがないであろう会計士の仕事の一部としてご紹介しましょう。

 まずは「確認」と呼ばれる手法。これは、取引先や銀行に対して、決算書に記載されている取引が存在するのか、正しく記載されているかを文書で問い合わせる手法です。具体的には、売上代金としてまだ入金されていない場合、決算書に「売掛金」として記載されているものが本当に存在しているか、売上先に会計士が文書で直接問い合わせるというものです。これにより、架空の売掛金はないか、結果として架空の売上はないかをチェックします。

 銀行に対しては、預金残高や借入残高などがいくらあるのか問い合わせます。この際、普通預金や借入金といった項目のみを記載した用紙を送付し、銀行に書き込んでもらいます。よって、本当に預金が存在しているかを把握できるのはもちろんのこと、決算書に記載されていなかった預金や借入を発見できることもあります。

 なお、この「確認」という作業は、改ざんが行なわれないよう先方への問い合せ文書の封入作業から、ポストへの投函、相手先からの回収、開封まで、すべて会計士の手によって実施されます。

 次に「実査」と呼ばれる手法。これは、企業の金庫の中の現金や手形、小切手などが、実際に存在しているかどうかを確かめるというものです。具体的には、金庫の中の現金はもちろんのこと、手形や小切手が決算書に記載されているだけ存在しているかを数えたりします。銀行の帯封がついているような現金の束も、わざわざ帯封をはずして数えます。また、手形帳や小切手帳などについても冊数や使用状況をチェックします。時には、銀行の貸金庫まで訪ねていき、そこで企業の現金などを数えることもあります。こうすることで、決算書に記載された現金などが、確かに企業内に存在していることを会計士自らが確かめることができるのです。

 そのほか、企業が実施している棚卸作業に同席する「立会」、決算書数値から比率などを計算して矛盾点の有無を調べる「分析的手続」など、会計士はさまざま手法を駆使して決算書をチェックしているのです。


2007/08/29

決算書と財務諸表監査
会計士の舞台裏……架空売上のチェック方法

 前回、上場企業などにおける「財務諸表監査」と呼ばれる公認会計士による決算書のチェックの存在についてお話ししました。

 上場企業の場合、決算書は最低でも年に2回、現在では3カ月に1回のペースで公表されるようになっています。さらに来年度の決算からは、3カ月に1回の決算書の公表が法律により義務付けられることになっています。
 前回お話したとおり、決算書の情報は関係各所にさまざまな影響をおよぼしますから、上場企業の決算書は公認会計士のチェック、つまり監査を受けることが法律により規定されています。

 決算書のチェックポイントはいろいろありますが、まず1つ目の大きなポイントが、架空の取引が決算書に集計されていないか、とくに「架空売上」がないかのチェックです。

 決算書の1つである損益計算書には、企業の1年間の売上の合計額が記載されています。そこで集計されている売上の中に架空のものはないか、いくつかの売上取引をサンプルとして選び出し、得意先との契約書や注文書など、取引が存在することを裏付けるような書類と照合します。また、金額が正しいかどうかも、それらの書類と照らし合わせます。
 ちなみに、このように決算書データと書類を照合することで内容をチェックする手法を「突合(つきあわせ)」といいます。突合は売上高以外の決算書情報にも広く利用できる手法で、公認会計士が日常行なっている主な業務の1つとなっています。

 決算書をチェックするポイントはほかにもありますので、次回はそれらについて紹介していきましょう。


2007/08/22

決算書と財務諸表監査
決算書は役立つ情報か?

 先日、丸の内某所にて「(株式)投資に役立つ決算書の見方」と題して講演をさせていただいたのですが、8月の株価の動きをみると「投資と決算書は無関係だ」といわれているような気がしてきます。アメリカのサブプライムローン問題をきっかけに生じた世界同時株安は、2007年3月期の決算書に示された日本企業の好業績という株価材料を吹き飛ばし、日本の株式市場にも大きな打撃を与えたのですから。

 確かに、必ずしも決算書と株価は連動しませんし、事実、今回のように連動しているとはいえない状況が生じています。とはいっても、決算書は企業の業績を示した書類。その内容は株価にも少なからず影響を与え、株式投資の判断材料として役立つものであることは間違いありません。

 ところで、決算書は何も株式投資だけに役立つ情報ではありません。あらゆるビジネスシーンにおいて誰でも活用できるものです。
 たとえば、新聞などに「○○株式会社、過去最高益」「××株式会社、資金繰り悪化」など企業の業績に関する記事が掲載されたりしますが、その多くは決算書をもとにした情報です。ビジネスの現場でも、取引先の状況を把握するのに、こうした新聞の情報や、決算書の情報を利用することがあるでしょう。もちろん、金融機関などは融資をするかどうかの判断に必ず決算書を利用します。

 決算書の情報は、ビジネスのさまざまなシーンで役立つ、身近でかつ重要な情報なのです。そう考えると、決算書の内容に「嘘」があったらどうでしょう。「業績のいい企業だと思って投資したのに……」という株式投資家はもちろんですが、企業にお金を貸している金融機関、取引をしている企業や消費者にもたいへんな影響を与えてしまいます。

 そこで、上場企業や規模の大きな株式会社など、社会に大きな影響を与える企業の決算書に「嘘」がないように、公認会計士によるチェックを受けなければならないことが法律上義務付けられています。このチェックを「財務諸表監査」といいます。

 次回から、この財務諸表監査における決算書のチェックとは具体的に何をしているのかについて詳しく見ていきましょう。



アスキービジネスについて

アスキービジネス

アスキービジネスはWebサイト「アスキービジネス オンライン」と雑誌「アスキービジネス ITスキルアップ」の両面から企業のIT担当者を支援するサービスです。